仕事をしていると「ケガをしそうになって危なかった!」というシーンってありますよね。
わたしは室内で仕事をすることが圧倒的に多いOLですが、こんな「危ない!」シーンに出会ったことがあります。
仕事中に出会った「危ない場面」!
- 大きな荷物を持っていて転びそうになる
- 作業中に上からモノが落ちてきそうな場所がある
- 電球の交換時に脚立から落ちそうになる
でも、もしこんな時にケガをしてしまったら、治療費や補償がどうなるのか気になりませんか?
治るまで治療費を自分で負担しないといけないのかな…?
実は仕事中にケガをした場合には、治療費を自己負担する必要がなかったり、休業中に補償を受けられたりと、労働に関する災害に遭った人を助けてくれるいろいろな制度が用意されています。
仕事中のケガは予期せず突然起こるため、どんな制度があるかを事前に知っておくことで、慌てず対処できますよ。
専業主婦の方でも、旦那さまが万が一仕事中にケガをしたときのために、使える制度を知っておくと安心ですよね。
この記事では仕事に関するケガや病気のうち、よく聞く補償や制度を4つ紹介していきます。
この記事で紹介する内容
- 労災保険
- アフターケア制度
- 傷病手当金
- 障害年金
万が一のときに慌てないために、仕事中にケガをしたときに使える制度とその内容をぜひ知っておきましょう。
Contents
仕事中のケガで利用できる制度

冒頭でもお伝えしたとおり、この記事では「仕事中のケガ」や「病気をしたとき」に利用できる制度を4つ紹介します。
適用できる制度は症状や状況によって違いますので、制度の詳細を見る前に、それぞれの制度の特徴をざっくりと説明しておきますね。
1.労災保険
仕事中・通勤中のケガや病気に適用される制度。
骨折やヤケドなどの軽微なものからパワハラによるうつ病など、適用される疾病はさまざま。
2.アフターケア
上記の「労災保険」が適用された病気やケガが、完治や症状固定となった場合に、以後の診察や治療が無料で受けられる制度。
疾病や症状などが定められている。
3.傷病手当金
病気やケガなどで働くことができず、仕事を休むことになった場合に、その間の生活を保障するために給付金を受給できる制度。
4.障害年金
病気やケガで一定の障害の状態になったときに、年金を受給できる制度。
「仕事中のケガ」と一口で言っても、利用できる制度はその状況によってさまざまです。
どんなときに、どんな制度が利用できるかを知っておきたいですね。
それではここからは、それぞれの制度について見ていきましょう。
労災保険
「仕事中のケガ」と聞くと「労災」を真っ先に思い浮かべる人は多いでしょう。
労災とは
通勤、業務中などの際に発生した怪我や病気
のこと。
そしてこれらの治療費や、働けなかった場合の生活費などを補償する制度を、「労災保険」といいます。
よく「労災」という言葉を見聞きしますが、労災保険とは正式には「労働者災害補償保険」といい、「労働者災害補償保険法」に基づいて業務災害、通勤災害の補償がされる仕組みとなっています。
また、怪我や病気で後遺症が残ってしまったり、万が一死亡してしまった場合などにも、労働者や遺族に保険給付が行われます。
労災保険は雇用形態に関係なく適用される
労働者を雇っている事業主は労災保険に加入する義務があります。
従業員が1人でもいれば労災保険に加入して、保険料を納付しなければいけません。(※農林水産業は除く)
そして労災保険が適用されている会社で働く労働者は、雇用形態に関係なく、労災保険の適用対象となります。
正社員はもちろんですが、アルバイトやパート、日雇いなどでも労災保険が適用されます。
ただし、派遣労働者は派遣「先」の労災保険ではなく、派遣「元」の労災保険が適用されることには注意しておきましょう。
労災保険が適用されるとき
労災保険が適用されるのは「業務中のケガ」だけに留まりません。
以下のような状況でも労災保険が適用されます。
- 業務中のケガ、病気
- 通勤中のケガ
- パワハラや過労による鬱病などの精神疾患
- 休憩中のケガ
ちょっと意外ですが、休憩中のケガや病気でも労災保険が適用されます。
ただし、私的な行為をしていてケガや病気をしてしまった場合、労災保険として認定されない場合もあります。
〇 休憩中でも労災保険が適用される例
- 休憩中に廊下で転んでケガをした
- 休憩中に食堂に行くときに階段を踏み外してケガをした
× 私的行為として労災保険が適用されない例
- 泥酔して転んでケガをした
- 出張中に観光をしていたら転んでケガをした
休憩中のケガや病気において、労災保険が適用されるかどうかはケースバイケースです。
ただ、一概に「休憩中だから労災が適用されない!」というワケではありませんので、もし休憩中にケガをしてしまったら、一度会社に相談してみましょう。
通勤中のケガも、「通勤災害」として補償の対象になります。
ただし、通勤災害は「適用される移動」や「その範囲」について定められています。
通勤災害が適用される移動
- 自宅⇔勤務地の移動
- 勤務地⇔別の勤務地の移動
- 単身赴任者の勤務地⇔赴任先⇔自宅の移動
上記の「通勤ルート」の定義から外れた場所に寄り道をしたり、通勤とは関係のない行動をしてケガをしてしまった場合には、通勤災害は適用されません。
ただし、「日常生活を送る中で必要なところに寄る道中でケガをしてしまった」場合には、通勤災害が適用されることがあります。
〇 通勤災害が適用される例
- 仕事が終わってから、体調が悪くて病院に向かっている途中でケガをした
- 仕事が終わってから、スーパーに向かっている途中でケガをした
× 通勤災害が適用されない例
- 仕事帰りに寄ったスーパーの中で転んでケガをした
- 仕事帰りにパチンコ店に向かっている途中でケガをした
寄り道をしたときに通勤災害が適用されるかどうかも、ケースバイケースです。
似たような状況でも、「日常生活上必要だったか」「業務と関係しているのか」など、状況をどう解釈するかによって通勤災害が適用されないこともあります。
ただ、「寄り道をしたから通勤災害は一切認定されない」というわけではありませんので、通勤・退勤途中にケガをしてしまった場合には一度会社に相談してみるとよいでしょう。
労災保険ではケガだけでなく、病気も対象となる場合があります。
厚生労働省のホームページには「職業病リスト」が掲載されているので参考にしてみましょう。
ちなみにこの「職業病リスト」以外の病気でも労災保険の対象になることがありますので、あくまで「参考」としてチェックしてみてくださいね。
関連リンク
職業病リスト:厚生労働省
労災保険の給付額

労災保険の給付額は以下のようになっています。
労災保険が適用になった場合、治療費は全額労災保険から出ます。
仕事を休むことになった場合、休業(補償)給付として以下の金額が支給されます。
最初の3日間
給付基礎日額の60%(通勤災害は対象外のことも)
4日目から
休業1日につき、給付基礎日額の80%
仕事を休んだ場合、4日目からは労災保険より給付基礎日額の80%が支給されます。
ただし、休業3日目までは「業務災害か通勤災害か」で補償内容が異なります。
業務災害(仕事中のケガや病気)の場合
休業給付が支給される
通勤災害(通勤・退勤途中に起こったケガ)
休業給付が支給されないこともある
業務災害の場合、労働基準法により「休業してから3日間は事業主が給付基礎日額の60%を補償しなければいけない」ということが義務づけられていますので、休業給付が支給されます。
それに対して、通勤災害には「休業して最初の3日間の補償」が義務づけられていません。
したがって、通勤中に起こったケガの場合は、「休業して最初の3日間」は補償されないことがあります。
労災保険の給付日額を計算するには、まずは1日あたりの賃金(給付基礎日額)を求めて、そこに80%を掛けます。
例えば・・・
- 賃金の締め切りが毎月末日
- お給料は20万円
- 事故が7月に発生
上記の例だと、まずは給付基礎日額は以下のようになります。
20万円 × 3ヵ月(5、6、7月)÷ 92日 =6,522円(1円未満は切り上げ)
この6,522円が給付基礎日額となります。
さらに労災保険の休業給付では、この給付基礎日額の80%が支給されるため、
6,522円 × 80% = 5,218円
つまり、1日あたり5,218円が支給されるということになります。
この1日あたり5,218円の金額が、療養で勤務できなかった日数分支給されます。
例えば10日間お休みしたとしたら、
5,218円 × 10日間 = 52,180円
合計52,180円が支給されるということですね。
労災保険の申請手続き

仕事中・通勤中にケガや病気があった場合、まずは会社に業務災害や通勤災害が生じたことを報告する必要があります。
その次に、状況に合わせた請求書を労働基準監督署に提出しなければなりません。
労災に指定された医療機関で治療を受ける場合
療養補償給付たる療養の給付請求書
労災に指定されていない医療機関で治療を受ける場合
療養補償給付たる療養の費用請求書
労災によって就業できず、賃金がもらえない場合
休業補償給付支給請求書
これら3つの請求書は、提出者は会社でも労働者でもどちらでも構いません。
書類を提出したら、労働基準監督署による調査、労災の認定・非認定の審査があり、審査を通過すれば無事支給といった流れになっています。
アフターケア
仕事中・通勤中にケガや病気をしてしまった場合、一部の疾病には、治った後にも無料で診察や治療を受けられる「アフターケア」という制度があります。
アフターケア対象のケガ・病気

アフターケアには対象となる疾病が定められており、2019年5月現在では20種類が対象疾病として厚生労働省により定められています。
アフターケアの対象疾病
脊髄損傷、頭部外傷症候群、尿路系障害、慢性肝炎、白内障の眼疾患、振動障害、大腿骨頸部骨折および股関節脱臼、人工骨頭、人工関節、慢性化膿性骨髄炎、虚血性心疾患、尿路系腫瘍、脳の器質性障害、外傷による抹消神経障害、熱傷、サリン中毒、精神障害、循環器障害、呼吸器障害、消化器障害、炭鉱災害による一酸化炭素中毒
さらにアフターケアでは対象疾病が定められているだけでなく、
- 疾患ごとの症状
- 身体障害等級
- 必要な検査や1か月の診察回数
などの基準も定められています。
アフターケア制度の申請方法

アフターケアの申請方法は以下のとおりです。
アフターケアを受診する際の手続きは、申請者が所属する事業所を管轄する都道府県の県労働局で行います。
アフターケアの申請には「健康管理手帳交付申請書」が必要です。
アフターケアの申請の時期は「ケガや病気が治った時期」とされており、具体的には翌日が起算日となります。
※ここで言う「治った」というのは、「これ以上治療をしても改善が見込めない場合」も含まれています。
申請期間は疾患によって様々で、期間に定めがない疾患もあれば、「起算日から〇年間」と定められているものもあります。
アフターケアの健康管理手帳は、一度発行すればそのままずっと利用できるわけではありません。疾患ごとに有効期間があります。
期間を迎えると更新する必要がありますので、忘れないようにきちんと管理しておきましょう。
その他、アフターケア健康管理手帳の「新規発行」や「更新の手続き」については厚生労働省のホームページにも掲載されていますので、チェックしてみてください。
関連リンク
『アフターケア』制度のご案内:厚生労働省
傷病手当金
働いている方が活用できる制度として、労災と同様に知られているのが「傷病手当金」。
傷病手当金はちょっと意外なことに、業務に関係のないケガや病気で3日間以上仕事を休むと、4日目の分から、お給料の約3分の2が支給される制度です。
例えばですが、
- 遊びに行って、ハメを外してケガをしてしまい、仕事を数日休むことになった
- インフルエンザにかかってしまい、数日間休みになった
という場合でも、条件を満たせば休職中に手当金が支給されます。
傷病手当金の特徴は以下の2つ。
- 長期間(最大1年6か月)の療養に対応できる
- 有給休暇を消化しなくても良い
ちょっとした病気やケガなら有給休暇でも対応できます。
ですがあまりに長期間だと、有給休暇だけではカバーしきれません。
また、有給休暇をあまり消化したくないということもありますよね。
そういった場合に、傷病手当金の制度が役立つかもしれません。
傷病手当金の制度については、「関連傷病手当金とは?どんな制度?手取り15万円の会社員OLの例を見ながら分かりやすく解説!」で解説しています。
障害年金
ケガや病気によって、就業が困難、生活が制限されるようになった場合には「障害年金」を受け取ることができます。
「年金」という名前がついていますが、「障害年金」は高齢者だけでなく、現役世代でも利用できる制度です。
「障害基礎年金」と「障害厚生年金」

障害年金は2種類あり、加入している保険によって、どちらの制度が適用されるかが変わってきます。
- 国民年金の加入者が対象。
- 対象の障害等級は1級、2級のみ。
- 子どもの加算あり。
- 厚生年金の加入者が対象。
- 対象の障害等級は1級、2級、3級、障害手当金。
- 子どもの加算、配偶者の加算あり。
- 「平均標準報酬額」、「厚生年金保険に加入していた期間」などによってもらえる年金額に変動あり。
障害年金には「障害基礎年金」と「障害厚生年金」があってややこしいですが、イメージとしては、「障害基礎年金」に「障害厚生年金」が上乗せされる感じです。
わたしのような会社員OLは厚生年金に加入しているため、受給できるのは「障害厚生年金」となります。
ここから先は会社員が利用することが多い「障害厚生年金」について見ていきましょう。
障害厚生年金とは

障害厚生年金は、以下の条件のときに支給されます。
厚生年金に加入している期間に初診日があるケガや病気により、障害基礎年金の1級または2級に該当する状態の障害と判断された。
※2級より軽い場合には3級の障害厚生年金が支給される。
障害厚生年金を受けるためには、障害基礎年金の保険料を納付していることが要件となります。
また、初診日から5年以内にケガや病気が治ったけれど、一定の障害が残ってしまった場合には、「障害手当金」として一時金が支給されます。
障害保険の支給要件

障害厚生年金を受給するためには
- 保険料の納付
- 障害認定時の要件
を満たしている必要があります。
初診日の前日において、保険料納付に関して次のいずれかの条件を満たしている必要があります。
(1)初診日のある月の前々月までの公的年金の加入期間の2/3以上の期間について、保険料が納付または免除されていること
(2)初診日において65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納がないこと
この2つのうちどちらかに該当すれば、保険料の納付要件を満たすことができます。
障害認定時には、以下の条件のうちいずれかを満たしている必要があります。
- 初診日から1年6ヶ月を経過した日に障害の状態にある
- 65歳に達する日の前日までの間に障害の状態となった
ただし、上記の条件を満たしていなくても、以下の治療や疾患、ケガの場合はそれぞれの一定の条件を満たしていれば要件を満たしたことになります。
人工透析、人工骨頭・人工関節、ペースメーカー・人工弁・ICD植え込み、人工肛門、膀胱増、切断・離断、喉頭全摘出、在宅酸素
また、障害年金の対象となる範囲は外部障害だけでなく、精神障害やがん、糖尿病などの内部障害も対象となります。
障害厚生年金の支給額の計算方法

障害厚生年金の支給額は、障害等級によって計算式が異なります。
障害等級:1級
報酬比例の年金額 × 1.25 + 配偶者の加給年金額
+
障害基礎年金(1級) + 子の加算
障害等級:2級
報酬比例の年金額 + 配偶者の加給年金額
+
障害基礎年金(2級) + 子の加算
障害等級:3級
報酬比例の年金額(最低保証あり)
障害手当金
報酬比例の年金額の2年分(最低保証あり)
※一時金として支給
上記の計算式に当てはめて計算します。
また、上記計算の中でよく出てくる「報酬比例の年金額」とは、以下の計算方法で算出されています。
報酬比例の年金額の計算方法
平均標準報酬月額 ×(7.125÷1,000) × 2003年3月までの被保険者期間の月数
+
平均標準報酬月額 ×(5.481÷1,000) × 2003年4月以後の被保険者期間の月数
※被保険者期間が300か月(25年)未満の場合、「300か月」を保険者期間とみなします。
障害年金の申請手続き

障害年金を申請する際には、以下の書類を近くの年金事務所に提出する必要があります。
- 年金請求書
- 必要書類
年金手帳、本人確認の書類、医師の診断書、受診状況等証明書、病歴・就労状況等申立書など
なお必要書類に関しては、18歳未満の子どもがいる場合や障害の状況、国民年金に任意加入していなかった期間がある場合など、状況によっては他にも必要な書類があります。
詳細は日本年金機構のホームページで確認してみてくださいね。
関連リンク
障害厚生年金の受給要件・支給開始時期・計算方法:日本年金機構
まとめ:仕事中のケガや病気でも慌てないために!どんな制度があるかを知っておこう

仕事中のケガや病気は予期せず突然起こります。
そんなときに使える制度を知っておきたいですが、それぞれの制度ではルールが細かく決められているため、すべてを覚えるのはなかなか難しいですよね。
ですが「備えあれば憂いなし」という言葉があるように、「どんな制度があるか」を事前に知っておくだけでも役に立ちますよ。
万が一ケガや病気をしてしまった時でも、慌てず対処できるよう、どんな制度があるかをぜひ覚えておいてくださいね。
以上、「労災だけじゃない!仕事中にケガしたときに使える補償って?」についての解説でした。